世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「あっ、これだわ!」
ソウォンが手にしているのは、龍の絵が隅に描かれている書物であった。
その龍を目にして、自然と自身の小指に視線がゆく。
龍をあしらうということは、王様に関係するものだという事が見て取れる。
ソウォンはその書物をチョゴリの下に隠し、チョンアに視線を送る。
「戻るわよ?」
「はい、お嬢様」
二人は人目に付かぬように細心の注意を払い、自室へと戻った。
ソウォンは水を一口口にして、気を落ち着かせた。
「お嬢様。私は夕食の支度がありますので、御用の際は御声掛けを……」
「ん、分かったわ」
チョンアが部屋を出て行くと、ソウォンは父親の部屋から持ち帰った書物を丁寧に開く。
何頁か捲り、ソウォンは紙の触り心地に違和感を覚えた。
父親が仕事をしている弘文館では王宮書庫の管理を任されている他、研究機関でもある。
諸外国の書物を研究することも多々あり、幼い頃に父親に連れられ、何度も弘文館を訪れたことがある。
その時に、王宮書庫に保管されている書物の修復をしているのをこっそり見たことがあり、滅多に手に入ることの無い特別の紙を触ったことがあるのだ。
柔らかいのに弾力があり、それでいてしっかりとした厚みのある紙を。
だが、今ソウォンが手にしている書物の紙質はとても薄く、指先で擦ると、それこそ穴が開いてしまいそうなほど脆い。
何年も前のことだが、さすがにその違いは歴然だ。
ソウォンは慎重に、更に捲った。
数を表すような横線が不規則な配列で繋がっており、単体で形を成すものもあれば、そうでないものもある。
それほど厚みの無い書物だという事も気になるが、表紙に描かれている龍が気になってしかたなかった。
「世子様は、ご存知では無かったけど……」
ソウォンに尋ねるということは自身は知らないということだし、何より、あの緊迫した状況の中で嘘を吐くとも思えない。
木札には龍の模様なり、王室に関係する文字のようなものは無かった。
一体、何を意味しているのか……。
ソウォンは書を傾けたり透かしてみたりして、何か手掛かりになるものが無いか調べ始めた。