世子様に見初められて~十年越しの恋慕


思わず目を見開き、世子嬪様を直視してしまった。

世子様から寵愛を受けていると思われ、どんな娘なのか自ら確認しに来たのだと感じたソウォン。
世子嬪様は嫋やかな笑みを浮かべ、ソウォンをじっと見据えている。
勘違いされても無理はない。
何度も王宮を抜け出して、自宅にまでお越し下さったのだから。
けれど、世子様との間には、情は情でも友情の絆しかないと承知しているソウォン。
世子嬪様がソウォンを女人としか見えなくとも、肝心の世子様には友としか見られていない。
ソウォンは、改めて世子嬪様が羨ましく思えた。
心の底からお慕いしている方を想い、このようにして行動に移せる事を。
決して言葉にする事も行動に移す事も許されぬ相手ゆえ、ソウォンの胸は締め付けられる思いだった。
だが、『私に代わって』とは、どういう意味?
物凄い速さで思考を巡らせると、一つの答えに辿り着いた。

これまで、“嫉妬”という感情に支配されたことの無いソウォン。
だからこそ、すぐには理解出来なかった。
だが、お言葉と今尚向けられている笑みから察するに、恐らくこれが“嫉妬”から来るものであると理解出来た。
側室として迎え入れるにあたり事前に確認しに来たのだとすると、自分に向けた謗りなのだと分かる。
罵声を浴びせたり、憤慨するような真似は世子嬪の品格を欠くゆえ、穏やかな口調で牽制しつつ、不愉快なご気分を敢えて笑みで伝えて来たのだ。

思わず背筋が凍ってしまった。
世子嬪様のお気持ちを害するようなことをしたつもりは無いし、これからもするつもりもない。
ソウォンは震える指先を合わせ直し、深々と頭を下げた。

「世子嬪様。ご心配には及びません」
「それは、どういう意味だ?」
「言葉のまま……でございます。私奴などに、世子様がお心を許す筈はございませぬ。どうぞ、ご安心下さいませ」

ソウォンの心臓は今にも弾けそうである。
女人としてでなくとも、人として心を許すことはあるかもしれない。
いや、既に友の契りを交わしているのだから、お心を許されているだろう。
だが、世子嬪様は自分を女人として……見ていると、そう思ったのだ。

ソウォンが内心を読み解かれないようにと必死に願っていると。


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