世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「後から症状が出るやもしれませんから、何かあればすぐに仰って下さいね?」
「えぇ、分かったわ」
「もうっ、世子様のお陰で寿命が縮まりましたよ」
「へ?……何で世子様が関係あるの?」
「何でって、元はと言えば、世子様がお屋敷に頻繁にお越しになるからではありませんか?!今だから言わせて貰いますが、年頃の娘に対して“友”だなんて、酷いですよ!世子様のご機嫌を損ねないように、嫁にも行くなってことですか?」
先ほどまでの無口なチョンアとは打って変わり、いつもの饒舌なチョンアだ。
「何にやにやしてるんです?お嬢様のことを話してるんですよ?」
「あぁ、はいはい、分かってるわ」
「もう、これだから世子様にも言われ放題なのですよ!」
「そんなこと言ったって、世子様に文句だなんて言える立場に無いわ」
「そうでしょうか?“友”ならば、口にしても良いのでは?」
「そう………なのかしら?」
世子様との関係だなんて、所詮世子様の気まぐれに過ぎないと思っている。
男女間に友情の形が存在するとしても、相手が世子様となれば、話が変わってくるのでは?
他の者よりも親身になることはあっても、さすがに口調までは変えられない。
それこそ、一族の首が私にかかっている気がして……。
ソウォンは溜息まじりにお茶を口にした。
それにしても、手土産まで用意して、一体何がしたかったのか。
やはり、私に対しての牽制だろう。
それに、どんな娘なのか自身の目で確かめたかったのだろう。
世子嬪様のお気持ちが痛いほどよく分かる。
だって、同じ人をお慕いしているのだから。
あのお方がお心を寄せている相手ならば、私だって一目見たいと思っていたから。
ソウォンはゆっくり瞼を閉じた。
すると、嫋やかな笑みを浮かべながら話す世子嬪様が瞼の裏に。
凛としているうえ、華やかで。
洗練された品格が滲み出ていた。
自分には無い素養が備わっていることがひしひしと伝わって来た。
あのお方のお心を鷲掴みにしていることが理解出来る。
世子嬪様は女人として、私は友として……、決して縮まることの無い差を突き付けられた瞬間であった。