世子様に見初められて~十年越しの恋慕


ヨンギルは涙する娘の心中を察した。

争い事が嫌いな父なのに、自分が世子嬪になってしまった事で迷惑を掛けてしまっているのではないかと。
更には王の血を引く御子を授かれば、益々権力争いの渦中に引き摺り込んでしまうと。

確かに初揀択の直前まで断れないものかと悩みに悩んだ。
だが、これも運命であるならば受け入れるしかない。
いずれはどこかの家に嫁ぐのだから、それが少し早まっただけだと思えば。
そう気持ちを整理して娘を送り出した。

もしかしたら、父親を気遣って御子を授からないようにしていたのかもしれない。
巷ではよからぬ噂もあるが、王宮でお見かけしたお二人はとても仲睦まじい風に見えた。

もしや、私とチョ・ミンジェ様との関係を知ってしまったのだろうか。

手塩にかけて育てた娘が慣れない宮中で辛い想いをしないようにと、チョ・ミンジェ様の計らいで気立ての優しい女官を手配して貰う見返りに、悪事に手を貸してしまった事を。

ヨンギルは顔を横に何度も振り、娘が知るはずもないと自分に言い聞かせる。
例え知ってしまったとしても、あれくらいの事なら、領議政の息のかかる高官であれば誰でもやっていること。
次期国王の義父なのだから私は大丈夫だと不安を搔き消すように念じた。

ダヨンはいつだって凛としていて人前で泣くような娘では無かった。
しきたりの多い宮中においてもいつも嫋やかであり、女官からの人気も高い。
そんなダヨンが今まで見せた事の無いほどに取り乱していた。


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