世子様に見初められて~十年越しの恋慕
初揀択(書類審査に通過した十数人が実技審査)、再揀択(初揀択で絞られた七~八人の面接)を経て、三揀択(再揀択で絞られた三人の最終審査)も無事終え、正式に世子嬪が決定した。
「世子様、…………世子様?」
「ん」
ヘスの元に戸曹判書(ホジョパンソ:財務長官)の娘ナム・ダヨンが世子嬪となる事が伝えられた。
ヘスより三歳年上で落ち着きがあり、王妃のお墨付きもある。
礼曹(イェジョ:婚礼や儀式、外交や教育関連を担当する官庁)から婚礼の詳細が記された書が届いた。
すぐさま針房(チムバン:王や王妃の服を作る部署)の女官が、ヘスの採寸に訪れていた。
婚礼は半月後に行われる事となり、宮廷内はより一層慌ただしくなっていた。
「世子様、両手を上げて頂けますか?」
革紐を手にした針房の女官が、世子の採寸を始めた。
ヘスは心に穴が開いたまま、妃を迎える事となる。
王の息子としてこの世に誕生したその瞬間から、自分の人生すら自分で決められない運命なのだ。
* * *
「お嬢様、仕方ありませんよ。そのお体では……」
「………分かってるわ。王宮内に病気を持ち込む事など、出来ないもの……」
ソウォンは書類審査に通過して初揀択に行く予定であった。
あれほど嫌がっていた揀択だが、あの少年の言葉が気になり、どうしてももう一度会わねばならぬ気がしていたのだ。
それに、少年から預かっている『トルパンジ』。
それを返す為にも……。
ソウォンも同じような金のトルパンジを持っているが、少年のトルパンジはそれとは違い、別格なような雰囲気を醸し出しているのだ。