世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「お嬢様?…………旦那様は何て?」
自室に戻ったソウォンだったが、チョンアの呼びかけにも答えれないほど放心状態であった。
確かに世子様とは約束をした。
けれど、それは『友情の契』であって、まさか宮中に上がるだなんて思いもしなかったのだ。
考えれば考えるほど、現実が重く圧し掛かる。
世子様と友の約束はしたものの、これまで通りに生活出来ると思っていたのだ。
だが、もしかしたら………、一生どこへも嫁ぐことを許されず、生涯において世子様の友であり続けないとならないかもしれないと考えたこともある。
まさかまさか………。
それが本当になるとは思いもしなかったのだ。
入宮するということは、生娘であることはさることながら、許可が出ない限り婚礼も挙げられない。
そもそも入宮自体が、王との婚礼を意味するからだ。
父親が受け入れたということは、ソウォンにどうすることも出来ないという事。
ただただ、王宮からの使者が来るのを待つ以外無いのだ。
長年胸の奥に秘めてきたお方のお傍にいられるということは嬉しいことなのだけれど。
お慕いしている方とその方の妻である世子嬪様の仲睦まじいお姿を目にしなくてはいけないという拷問が待っている。
何ともいえぬ感情が沸々と湧き上がり、ソウォンの心は乱れに乱れて、今にも壊れてしまいそうだった。
「お嬢様?…………温かいお茶でも」
そっと握らされる温かい茶器が、凍えそうなソウォンの心に沁みた。
「私、………女官になるらしいわ」
「はい?…………どういうことですか?」
チョンアの顔を見つめ、大粒の涙が零れ落ちた。