世子様に見初められて~十年越しの恋慕
初揀択の数日前からソウォンは高熱を出し、床に臥せっている。
煎じ薬を飲んでいるのにも関わらず、一向に熱が下がらないのだ。
本来は、嫌でも揀択に参加したくなかったのだから、願ったり叶ったりなのだが。
トルパンジを手にしている今、一番の悩みの種でもあった。
「ねぇ、チョンア」
「はい、お嬢様」
「これって、やっぱり………龍よね?」
「……………恐らく」
ソウォンの胸元に革紐でくくられた、ヘスのトルパンジ。
それには、王と世子だけに許されている絵柄……龍が彫られている。
小さな指輪の絵柄だから、ひょっとすると龍ではないかもしれない、そう何度も自分に言い聞かせていた。
けれど、何度見ても龍以外に見えないのだ。
王や世子から賜ったものならば、それこそ家宝になること必至だ。
だが、正確には賜ったのではなく、預かったと言った方が正しい。
『授ける』とは言われてない。
『持っているといい』と言われただけ。
不用意に話をしてとんでもない禍を招く事も考えられる。
だから、ソウォンはチョンアにだけ話し、トルパンジを失くさないように密かに身につけ、何事もなかったように過ごしていた。
結局、ソウォンは病を理由に初揀択を辞退せざるを得なかった。
そして、一月後には世子嬪が決定し、正式に婚礼の日取りも決まったとの知らせを受けた。
物思いに耽るソウォンに、好物の薬菓(ヤックァ:伝統菓子)を差し出すチョンア。
ソウォンは、時折胸元に忍ばせているトルパンジを手にとっては溜息を吐いていた。