世子様に見初められて~十年越しの恋慕
父親との会話をチョンアに話すと、チョンアは取り乱した。
側室となるために入宮するなら理解出来るが、身の回りの世話をさせるために入宮させるだなんて。
両班の娘を女官にさせるだなんて、聞いたことがない。
養う家族がいるわけでもなく、ソウォンは漢陽一、二を争う名家の箱入り娘なのに。
納得が出来ないチョンアは父親であるジェムンに物申すと立ち上がった。
「チョンアっ!!」
「ですが、お嬢様っ」
「他の誰でもない、相手が相手なのだから仕方ないわ」
「……………不条理過ぎますよ」
青褪めたソウォンを目の当たりにし、チョンアは泣き崩れるしか出来なかった。
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「お嬢様、お気をつけ下さいませね」
「分かってるわ」
ソウォンは馬に跨り、ユルと数人の商団の者を連れて漢陽の外れを目指した。
闇取引の仲介役と思われるテドンとの約束の日なのだ。
指示された倉庫に到着すると、見慣れた小間使いの男が出迎えた。
荷物の検品を済ませ、倉庫内に品を運び入れると、ユルが無言で背を向けた。
それは、何らかの危機を察知して警戒しているという事。
けれど、ここは倉庫の中。
何に殺気立っているのかソウォンには分からなかった。
帰りの道中、ソウォンはユルに近づき、先ほどの事を尋ねると。
何者かに見張られている気がしたと言うのだ。
何者かとは、一体誰だろうか。
自分らを見張るという事は、月花商団に対して何らかの探りを入れているという事か?
何処にでもあるような倉庫で、からくりがあるようにも思えなかった。
穀物商の使用人と思われる人物が数人いたから、彼らの視線が気になったのだろうか。
ソウォンはこの先、どうやって闇取引の実態を掴もうかと思案していた。