世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第十話 秘密の夜


「父上」

毎朝の日課である王への挨拶をする為、王の寝所である康寧殿(カンニョンジョン)を訪れた。
すると、いつもとは違う事にすぐ気が付く。

「父上、どこか体調が優れないのではないですか?」
「…………大したことない、気にするでない」

明らかに顔色が優れない康宗(国王)。
けれど、自ら体調が悪いと認めるという事がどれほど危険か、康宗もヘスも理解している。

ヘスは寝所を出た所で、王付きの尚宮にそっと尋ねる。

「父上の症状は?」
「恐れ多くも、王様は半月ほど前から手足の浮腫がみられ、数日ほど前から眩暈や手足の痺れがお有りのようです」

半月ほど前から症状が出ているとは。
ヘスは全く気が付かなかった。
チュ・カンジンに認めて貰う事やソウォンの事、そして王命による調査と多忙であった為、体調不良に気付きもしなかった事を悔やんだ。

「この事は他言無用。何かあれば、直ぐに知らせよ」
「はい、世子様」

ヘスは一日も早く王命を果たそうと心に誓った。


*********


「月花商団とな?」
「はい、大監(テガム:正二品以上の高官の敬称)」
「背の高い方が大辺首だと申したな」
「はい、大監」
「新しい商団とは言え、かなり若いな」
「そうなんです。私もかなり驚きまして」

ソウォンとユルが偵察中の穀物商の倉庫の一角。
壁には、特殊加工された鏡が掛かっていたのだ。
倉庫の中からはただの鏡であっても、壁の外側から鏡の玻璃(ガラス)部分を通して見る事が出来る代物。
ユルが違和感を覚えたのは、まさしくこれであった。

「気付かれぬように後を付けろ」
「承知しました」

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