世子様に見初められて~十年越しの恋慕
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「今宵は見事な望月(満月)ですね」
藍色のコドゥルチマ(チマをふんわりと膨らませた着用法)に合わせるように枇杷色のチョゴリは丈が短く、女性らしい体型を強調している。
一般女性のチマは左から右に巻くのに対し、妓生のチマは右から左に巻かれており、引きずるほど長い裾を左手でそっと摘み上げ、右手を優雅に添えて。
視線を落とし、蝶のように静かに歩く。
カチェ(盛髪用のつけ毛)をふんだんに使い結い上げたトゥレモリ(妓生特有の盛髪)は華やかで、ピニョ(一般的な簪の総称)やティコジ(分け目や毛筋を整えるのに使われた小さめな簪)やトルジャム(宮廷内の位のある女性が身に着けた豪華な簪、妓生も好んだ)を幾つも付けて。
蝶の形をあしらったノリゲ(チョゴリの結び目に着けた装身具)が揺れ、練香の甘い花の香りが漂う中、辺首妓生のシファは静かに振り返り呟く。
「良いのですね」
「………えぇ」
「では、参りましょう」
シファは踵を返すと、表情を一変させた。
「失礼致します」
優雅な所作で戸をゆっくりと開ける。
シファの後に続き、三人の妓生が部屋に入ると。
鼻の下を伸ばした男共が一斉にシファ達の方に視線を向けた。
「見慣れぬ顔だな、新入りか?」
「はい、大監。新入りのソニと申します。ご挨拶を」
「ソニと申します。どうぞご贔屓下さいませ」
シファが大監と呼ぶ男が手招きした事もあり、ソニは微笑みながらゆっくりと隣に腰を下ろした。