世子様に見初められて~十年越しの恋慕


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康寧殿(カンニョンジョン:王の寝所)を深夜に訪れた世子のヘス。
事前に尚膳(サンソン:内官の長)に人払いを頼んでおいた為、静寂に包まれている。

ヘスは親衛隊を康寧殿の周りに配備させ、慎重を期した。
そして、信頼のおける内官と尚宮を従え、隅々まで調べ始めた。

実はこの日、王の床入れの日とされていたのだ。
実父である国王の康宗の命を受け、隠密に取り調べる事となったのだ。

本当であれば、王が王妃の寝殿である交泰殿(キョテジョン)に足を運ぶという行為自体避けたい所だが、症状が悪化して来ている事もあり、急を要する事となったのだ。

「どうだ、何か見つかったか」
「いえ、世子様。これと言っておかしな点は見つかりません」
「時間はある。………固定観念は捨て、隈なく調べるのだ」
「はい、世子様」

ヘスは思い当たるような箇所を自ら調べる。
香炉や燭台、窓や戸の淵、寝具周りに文机、火鉢や硯、筆掛けに至るまで事細かく。
けれど、おかしな点は見つからない。

ソウォンが言っていた、『体に良い物でも過剰に摂る事で毒と化す』と。

「チン内官」
「はい、世子様」
「父上に処方されている処方箋を密かに手に入れるのだ」
「はい、世子様」
「ク尚宮」
「はい、世子様」
「ここひと月程前からの父上の食事内容が記されているものを隠密に入手せよ」
「承知しました」

何が原因なのか、ヘスには見当もつかなかった。
毒でない以上、危険ではないものが危険だという柔軟な思考が求められていた。


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