世子様に見初められて~十年越しの恋慕


*********

ユルが商団のとある倉庫に到着すると、既にそこには役人数名がいた。
当番制で寝泊まりしている商団の者が、あたふたと対応している。

ユルはすぐさま監査役の役人に挨拶し、事前に用意しておいた書類を手渡すと、役人が取り扱い品目の帳簿を確認し始めた。

すると、ユルは扉の外に殺気のようなものを感じたのだ。

ユルは片付ける素振りをし、二階から下を確認すると、そこには体躯のいい男がいた。
殺気の感じが昨夜のものと似た感じがする。
はっきりと姿形を見た訳では無いが、恐らく領議政の力でここを突き止めたに違いない。

ユルはすぐさま抜け通路を使い、裏口の戸の横に杯を置いたのだ。

自分が居なくなれば返って怪しまれると思い、ユルは堂々とした態度で再び中へと戻った。


ユルが役人の質問に答えていると、チョンアは茶膳を手にして執務室へと現れた。
チョンアが一人で現れた事で、一先ず胸を撫でおろすユル。
チョンアは役人に茶を出し、ユルの手元から帳簿を受け取ると、いつも通りに今日取引する品目の確認を始めた。
すると、ユルも平然とした態度で過去の徴税票を纏め始めた。

********

その頃、表にいたウガンは部下数名に指示を出していたのだ。
もしかすると、秘密部屋や秘密の通路があるかもしれないから念入りに辺りを捜索しろ、と。
その指示に従った部下が、物凄い勢いで散る。

ちょうどその頃、そんな事も知らぬソウォンは、木樽の陰に隠れ息を殺していた。


< 171 / 230 >

この作品をシェア

pagetop