世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「それで、隠れているつもりか?」
「ッ?!」
木樽の陰に隠れて商団の建物の方に気を取られているソウォンにそっと近づき、微笑するのは……。
「世子様っ!」
「シッ!」
振り返ったソウォンは声の主に驚きを隠せない。
口元に人差し指を立て辺りを気にしながら、ヘスは呆け顔で見下ろしていた。
「家から出るなと命じたはずだが?」
「………申し訳ありません」
しょげ込むソウォンに対し、ヘスは腕組して鋭い視線を向ける。
「何故、ここにいるのだ。中に入れぬ事情があるのだろう?」
好奇心旺盛で責任感も強く、女子にしておくには勿体ないほどに行動力がある。
それだけに、家にじっと閉じ込めておけないのは百も承知。
愛おしいからこそ、傷ついて欲しくない。
ソウォンは昨夜、別れた後に起きた出来事を伝えた。
すると、予想していたかのように驚かないヘス。
盛大な溜息を吐き、天を仰いだ。
ヘスが少し離れた所にいるヒョクに目配せした、その時。
商団の建物からチョンアが姿を現した。
「お嬢っ……、世子様ッ?!」
「シッ!」
ヘスはチョンアに対し、再び口元に人差し指を立てた。
慌てて駆け寄るヒョクに対し、ヘスは片手を上げた。
「中で起きている事を完結に述べよ」
「………はい、世子様」
チョンアは生唾を飲み込み、顔を伏せた。
「本日は監査が入る日でしたので、提出する帳簿の確認をしに参りましたが、表に不審な人物を数名確認致しました」
「ヒョク」
「承知しました」
チョンアの話を聞き、ヘスがヒョクに目配せすると、ヒョクは部下に辺りを調べるように指示を出した。
「ソウォン、ここにいても危険が増すだけだ。一先ず、自宅まで送る」
「世子様にご迷惑をお掛けするわけには参りません。この者と参りますので」
ソウォンはチョンアの腕を掴み訴える。
けれど、ヘスは顔を横に振り、商団周辺の警備と自宅までの護衛にと部下を分散させた。