世子様に見初められて~十年越しの恋慕
自宅の裏門前に到着したソウォンは、深々とお辞儀をする。
ヘスが踵を返すのをじっと待っていると、何故か足元に落とした筈の視界に白い包みが現れた。
「そなたの好物だと大提学から聞いたゆえ……」
「私に……でございますか?」
「他に誰がいる」
「…………大変恐縮に存じます」
差し出された白い包みを受け取ると、ヘスは照れを隠すかのように咳払いをした。
「暫く家から出るでないぞ?」
「………はい」
消え入りそうなほどの返事に、ヘスは溜息が零れた。
「屋敷に閉じ込めておけぬのは分かっている。そなたには目に見えぬ羽が生えているからな」
「っ……」
両班の娘ではあるが、幼い頃から屋敷の外で育ったようなソウォンにとって、毎日自宅に籠ることがどれほど苦痛か、ヘスも分かっている。
それでも、譲れぬ理由があるからこそ、ヘスは強めの口調で……。
「次、屋敷の外でそなたに逢う時は、宮中だという事を忘れるでないぞ」
「…………はい、世子様」
すっかり委縮しきったソウォンの頬に手を伸ばしかけたヘスであったが、ここで甘やかしてはならぬと思いとどまり、カッ(笠)のつばを少し引き、踵を返した。
ヘスは部下と合流し、報告を受ける。
好奇心旺盛なソウォンが国王の病に気づき、それを放置しておくはずが無いと思っていた。
商団の仕事を理由に屋敷の外に出るだろうと気を揉んでいた。
それと同時に、少し前からソウォンを探る者がいるという事も調べで分かっていた。
水面下でソウォンの入宮の手続きをしても、必ず漏れると予想していたのだ。
それゆえ、何らかの動きがあると踏んでいた。
長い歳月、胸の奥に仕舞い込んでいた淡い想いが、漸く小さな芽になろうとしている今。
その芽を摘もうとしている輩がいるのであれば、どんな手を使ってでも阻止せねばならぬ。
これが運命という道ならば………。