世子様に見初められて~十年越しの恋慕


横たわる体を必死に起こそうと試みるも、平手打ちされた時の衝撃で右肩を負傷したようだ。

何とか痛みを堪え、壁板に隙間がないか、手で探る。
すると、ほんの少しだけ板の尖り部分を見つけた。
縄を切るには不十分かもしれないが、何もせずにはいられない。
ソウォンはその部分に手首を当て、何度も何度も擦り付けた。



どれ程の時が経ったであろう。
壁板の隙間から陽の光が漏れていたのに、すっかり陽が落ちたようだ。

右肩に力が入らず、腕を振るのも限界。
中々縄を切ることが出来ず、ソウォンに焦りが見え始めた、その時。
小屋の外から男の呻く声が聞こえた気がした。

ソウォンは息を殺して、戸に視線を向けた、次の瞬間。
錠前を壊す音と戸を激しく蹴る音が響いた。

破壊されるように開かれた扉から、黒づくめの男が現れた。
男はすぐさまソウォンに駆け寄り、無言で縄を解く。
負傷した肩を庇うように右腕を掴んだソウォン。

「大丈夫ですか?」

自分が何処の家の娘かを知ってるような素振りを見せた男は、ソウォンの体を支えて一先ず立たせた。

「歩けますか?」

向けられた視線から、敵でない事が窺える。
ソウォンは男に対して、小さく頷いた。

「急ぎましょう」

男に支えられながら、ソウォンはその場を後にした。




見知らぬ男に連れられて来た先には隠れ屋なのか、人の気配のない屋敷が。
男が静かに戸を開けると、部屋の奥に別の男性がいた。

「お入り下さい」

軽く一礼した男は、居室内にソウォンを入れ、静かに戸を閉めた。


連れ去った連中から助けてくれたのだから有難いのだけれど、別の場所に連れて来られて軟禁状態に陥ったのでは無いよね?

部屋の奥にいる男はまっすぐソウォンを見据え、微動だにしない。
何者かは分からないが、眼力に威圧感があり、服装からして、身分の高さが伺える。

ソウォンは深呼吸して、深く一礼した。


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