世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第十一話 暗号
「世子様、大変です」
「何事だ」
「ソウォン様と護衛の者が捕盗庁に連行されたようです」
「何だと?!」
弐極門(イグクムン/弐極は王世子を指す)をくぐった先にある丕顕閣(ビヒョンガク)で執務をこなすヘスの元にヒョクが血相を変え駆け込んで来た。
「戸判様(ホパン/戸曹判書の略、ヘスの義父)の私邸に忍び込んだのが…」
「今頃になって…、何処から漏れたんだ?」
「それが、戸判様ではなく何者かが儒学者達を扇動したようで、光化門(クァンファムン:正門)前で儒学者達が弾糾しているようです」
「何ッ!?」
ヘスは勢いよく立ち上がり、その足で捕盗庁に向かおうとした、その時。
丕顕閣の外には尚膳(サンソン:王専属の内官)が待ち構えていた。
「王様がお呼びです」
呼ばれた理由は察しがつく。
情報が漏れぬように手は打ってあったのだが、こうして明るみに出てしまったのだから、弁解の余地も無い。
ヘスの脳内はソウォンを助け出す事と王に何と説明すればいいのか、真っ白になっていた。
尚膳に連れられ着いた先は慶会楼(キョンフェル:王と臣下で宴をしたり、外国の使臣を接待する為の場所)であった。
普段は許可なく立ち入れない場所でもあり、尚且つ予め人払いをしてあるようで、一帯には護衛の姿すら見当たらない。
緊張した面持ちで階梯(階段)を上がると、後ろ手に池を眺める王の姿が。
「王様、世子様をお連れしました」
尚膳は一礼すると、その場を後にした。
「世子」
「はい、王様」
怒号が飛ぶかと思いきや、王の声音はいつになく穏やかで。
失望させてしまったのでは?と焦っていたが、王の様子から予想もしない反応に逆に肩透かしを食らったかのよう。
ゆっくりと振り返った王の眼は、今まで見た事のないような光を宿していた。