世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「大提学の娘の件は手を打ってあるから安心しろ」
「へ?」
「お前には、やるべき事がある」
「……はい」
「良いか?五日以内に領議政チョ・ミンジェの悪行の証拠を掴め」
数年前から暗行御史の命を賜り、各地を廻りながら証拠集めをしていた。
悪行は一つや二つでは無い。
朝廷の高官だけでなく、王宮内は勿論のこと、妓楼や地方の酒場に至るまで領議政の息のかかる者が潜んでいる。
だが、失脚を狙うだけでは無いという。
「世子に冊封される時に約束した事を覚えているか?」
「はい、勿論覚えています」
「どんな対価を払ってでも、闇に葬られた真実を暴く時が来ると…」
以前父である王が、闇に葬られた真実があると教えてくれた。
その真実を解き明かすため、長い年月をかけて調べていると。
玉座を賭けて挑まねばならぬと父が言っていただけに、その真相を暴く時はたった一度だけ。
失敗は許されず、暴くことが出来なければ死を覚悟すると。
それだけ領議政の力は計り知れない。
隙を作れば一瞬で葬られる。
世子に冊封されれば、次は自分が狙われる。
幼いながらもあの日の父の言葉はしかと記憶している。
「身を賭して役目を果たします」
ヘスは深々と一礼した。
「真実が明るみに出た暁には、世子のどんな願いも叶えてやると約束しよう」
「そのお言葉、お忘れなきよう…」
厳しい言葉で諌めたとしても、いつだって父上は味方してくれる。
謀略が蔓延る王宮で生まれ育った自分は、逃れる場所が無かった事もあり、いつだって城の外の世界に憧れていた。
そんな時に出会った娘がソウォンである。
利発な上、純真無垢な彼女に一目で惹かれた。
これまで集めてきた証拠を纏めるため、ヘスは踵を返し、急いでその場を後にした。