世子様に見初められて~十年越しの恋慕
牢獄に捕われたのは初めてだが、明らかにおかしいと感じる。
獄舎にいるはずの看守が一人も見当たらない。
夕食の食事も思い描いていたような粗末な食事ではない。
挙句の果てには、他の囚人がいる気配すらなく、ただじっと時が経つのを待っているかのようで。
そんな静まり返った牢獄に足音が近付いて来た。
もしかしたら、何者かが息の根を止めに来たのかもしれない、そう悟ったソウォンは、夕食時にくすねた皿を寝床用に敷かれた藁で包み、音が漏れないようにして砕いていた。
その破片を握り、壁に寄り掛かりながら寝ているふりをしていると、鉄格子の前で足が止まった。
「ソウォン様、とある場所へとお連れ致します」
聞き覚えのあるような声。
鍵を開ける音が耳に届き、ソウォンはゆっくりと顔を持ち上げた。
薄暗い牢獄の中、手灯に照らされたのは数日前に監禁から助け出してくれた男。
またもや助けに来てくれたのかと思いきや、『とある場所』という言葉で思考が停止した。
殺しに来た刺客には見えない。
一度助けて貰った事もあり、安心感さえ覚えるほど。
ソウォンの歩幅に合わせるようにゆっくりと獄舎の奥へと進むと、狭い部屋に辿り着いた。
男はおもむろに壁の三か所を順に押すと、突然床の一部が動き出した。
どうやら隠し通路らしい。
男の後を追い突き進むと、出た先は王宮の中のようだ。
捕盗庁は光化門の南に位置しており、さほど離れていない。
地下通路で繋がっていてもおかしくない距離。
男は辺りを注意しながら振り返った。
「こちらです」
言われるままについていくと、後宮の殿閣と思われる建物に辿り着いた。
中に案内されると、あの時と同じ初老の男性が立っていた。
「ッ?!!」