世子様に見初められて~十年越しの恋慕


近付いて初めて気付く。
あの時とは違い、目の前の男性の衣は、直視してはいけない模様が施されているのだ。

「お連れしました」

深々と一礼する男を目の当たりにし、ソウォンは慌てて膝をつき、顔を伏せた。

「王様、拝謁致します」
「顔を上げよ」
「恐れ入ります」

顔を上げてよいと言われても、はいそうですかと簡単には上げられない。
ほんの少しだけ上体を起こし、床についた手元に視線を落としたまま息を飲むと。

「緊張しているのか?」
「………」

しないわけがない。
会いたくても簡単に会えるような人ではない。
世子様ですら、何度お会いしても緊張するというのに。

「回転の早いそなたなら、もう察しがついているだろうが、捕盗庁に捕らえさせたのは隠れ蓑だ」
「ッ?!」

無意識に顔を上げ、視線が合ってしまった。

「儒学者達を煽り投獄させるのが目的で、そなたを尋問する為でも私邸に潜入したのを罰する為でもない」
「では、何が……」

これまでの経緯を全て見透かされているようだ。

「入れ」

少し低めの落ち着いた声音。
ソウォンの背後から一人の女性が現れた。
黒装束姿で口元も布で覆われている。

「そなたには、今から話す事の真相を暴いて欲しい」
「ッ!!」
「三十年余りの歳月をかけて、漸くこの時を迎えた」

王は拳をきつく握りしめ、目に涙を浮かべた。

「余には四つ年下の妹がいた。妹のギョンは生まれながらに心の臓が悪く、あまり出歩くことすらままならなかった」

幼くして亡くなった公主がいる事は知っていたが…。

「話し相手にと親友のヨンギル(現在の戸判)を連れて、よくこの咸和堂(ハムファダン)を訪れていた」



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