世子様に見初められて~十年越しの恋慕
静まり返る室内。
ダヨンはソウォンを支え立たせると、深々と一礼した。
「世子様からソウォン様の事は伺っています。私のこの座も、本来ならばソウォン様がいるべき場所です」
「それは違います!私は病いで再揀択(三人に絞られる)に残りませんでした。ですから、お気に留める必要はありません」
そもそも、揀択に出たく無かったくらいなのだから。
「嬪宮とは誂えられた地位で、本当の身分は奴婢であり、真相を暴くべく戸判様の娘として送り込まれた影の組織の一員です」
「へっ?!」
もう何が何だか情報が多すぎて思考が追いつかない。
「貴女が護衛だと、世子様はご存じなのですか?」
「いいえ」
「ッ?!」
衝撃的な事実を知ってしまったソウォン。
世子様のご成婚は今年で十一年目のはず。
王命によって任を賜るとしても、流石に十年連れ添ったら情が湧くというもの。
見目麗しき容姿で何不自由ない生活をして来たわけだし……。
真相究明とは全く関係ない事ばかりが気になって仕方ない。
じろじろと見てはいけないと思い、視線を泳がせていると。
「ご心配には及びません。見た目は女ですが、心は男です。世子様は元より、男性に好意を抱いた事は一度もありません。むしろ、ソウォン様のように愛らしい女性が好みですし……」
「ええええ?!」
思わず声が裏返ってしまった。
「心に決めている人はいますので」
誰かを想う瞳は嘘をつけない。
彼女の瞳は一途に恋慕う、そんな瞳だ。
「戸判様の屋敷にも間者が潜り込んでいるので、里帰りをした際も気を抜く事はありません」
漸く全容が見えて来た。
父娘の会話も筒抜けになるほど、敵の目が光っているという事か。
ソウォンはダヨンに近づき、声を顰める。
「何からすればいいのかしら?」