世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ダヨンは戸判から預かった竹の書簡をソウォンに手渡した。
ソウォンは蝋燭の灯りを近づけ、目を凝らす。
「書いてある事は分かるのだけど、それが何を意味しているのかが分からないわ」
「八卦の文字ですよね?」
「えぇ」
ソウォンは仕掛けが施されてないか調べる為に、透かしてみたり炙ってみたりして試すが答えは見つからない。
文字の羅列に法則があるのかと考え、縦読み、横読み、反対から読んでみたり。
けれど、あと一歩が分からずにいた。
「この殿閣一帯は禁足地になっている上、見張りの者を配備させています。期限までの間はここでお過ごし頂き、必要な物があれば、何なりとお申し付け下さい」
「分かりました」
「それと、言葉遣いを……」
他の人に会う事は無いだろうけど、誰かに聞かれたら困るかもしれない。
とはいえ、刺客のような格好をしていたら、世子嬪だとは誰も気が付かないか。
世子嬪だと脳が勝手に認識してしまう。
本来は奴婢だと言うから、何だか複雑。
「ダヨンさんも気兼ねなく話してね」
「恐れ多いです」
「急には難しいわよね?フフッ…」
「………はい」
二人で顔を見合わせ、笑みが溢れた。
「今日の所は、そろそろ休まれますか?」
「そうね。焦っても煮詰まるだけだから、明日の朝から始動ということにしましょうか」
「承知しました。では、寝床の準備を致します」
本来なら使われていない殿閣だから、埃だらけだろうに、しっかりと掃除がなされている。
ダヨンは夜着と寝床の用意を済ませ、その場を後にした。
戸の近くに置かれた燭台。
薄らとした灯りの中、横たわると…。
徐々に夜目が効くようになって来た。
呆然と室内を見回すと、天井や壁にも綺麗な模様が描かれていた。