世子様に見初められて~十年越しの恋慕


例え影の組織であろうとも、自分を護衛してくれる人の名前くらいは知っておきたい。
純粋に人に対しての礼儀だと思うから。

困った表情を浮かべたが、真っ直ぐ見つめるソウォンに根負けしたようで、男は軽く会釈しながら…。

「ジルと申します」
「ジル様ね?」
「呼び捨てでお願い致します」
「それは出来ないわ!命の恩人ですもの」
「……あれは任務でしたので」
「それでも、命の恩人に代わりは無いわ」
「……」

ソウォンの口振りに困り果てたジルは、小さなため息を漏らした。

「では、王様が不在の時だけにお願い致します」

さすがに主君の前で呼ぶのは危険よね。
身分を聞いてないから分からないけど、恐らく奴婢に違いないし。
身分の高い人がわざわざ影の組織に所属しない筈だもの。
いちいち確認するまでもない。

「分かりました」
「では、部屋の外に待機してますので、御用の際はお声掛け願います」
「分かったわ」

ジルは一礼し、静かに戸を閉めた。
ソウォンは茶を注ぎ、喉を潤す。
筆を右手に茶器を左手にして、書き出した暗号を食い入るように見ていると、一つの法則を発見した。

『日の出に有明月』の有明月とは陰暦で十五夜の次の日以降の事を指す。
日の出は恐らく位置を示してるだろうから、東の方角を意味するだろう。

『薄暮に九節飯』の薄暮は夕暮れだから西ね。
九節飯は九?それとも、器が八角形だから八?
とりあえず、九か八ということにして。

『髪に菊の簪』の菊は、何だろう?
花言葉?画数?
画数であれば、他の数字も画数で良さそうだけど、わざわざ違う言葉で表してるのだから、きっと画数ではないよね。
髪……髪……毛?……分からない。

思い当たる言葉を紙に書き出し、床に並べてみる。



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