世子様に見初められて~十年越しの恋慕
謎が解けぬまま、気付けば夕暮れ。
ジルが蝋燭に火を灯していると。
「あっ!!」
ソウォンは勢いよく立ち上がった。
「ジル様、この殿閣は何ていう名前の殿閣ですか?」
「咸和堂(ハムファダン)です」
「やっぱり!!」
何年も前に父の部屋で八卦の図を見た時に、ここと同じような仕掛けに誂えてある見取り図の図案を目にしていた。
「暗号が解けたのですか?」
「完璧では無いけど、法則は読み取れたわ」
ソウォンはジルを手招きして、机に向かった。
「王様が公主は生まれつき心の臓が弱かったと仰ってたから、公主という立場を考えると、健康と長寿を願って、殿閣そのものに風水や八卦大極を取り入れた」
ソウォンは八卦太極図を描き出し、暗号と並べてみる。
「なるほど……」
「この暗号を訳した文字を当て嵌めて考えると……」
ソウォンは訳した文字が書かれている紙を手にして一旦部屋を出て、殿閣の入口へと。
「日の出に有明月は、東に十六歩強」
亡くなった公主の歩幅を考えて、少し小股で歩いてみる。
「……十五、十六」
入口を東に向かって十六歩進んだ先は、先程ソウォンがいた部屋の前。
「次に、薄暮に九節飯だから、西に……八、九歩」
数えながら歩み進めた先は、部屋のほぼ中央に辿り着いた。
「次は、髪に菊の簪」
ソウォンとジルはぐるりと室内を見回す。
「あっ!」
寝床に横たわった状態や机に向かった状態では気付かなかったこと。
何故、部屋の中央にいるのか?という事だ。
「ジル様、ここに立って菊の花が何処かに見えます?」
「………いえ」
「やっぱり…」
菊を何かに変換しないとならないって事ね。
「菊が咲くのは秋だから……重陽?そうか、菊は重陽の節句だ!という事は、陰暦で九月九日!」