世子様に見初められて~十年越しの恋慕


ソウォンは今一度室内を見回す。
すると、ジルが人差し指で天井を指した。

「縦横九つに……」
「なるほど」

二人で見合わせ、手元の紙に視線が移る。

「次は『紅梅に天の川』」
「紅梅はあれですね」
「えぇ」

天井に施された模様の中に紅梅が沢山記されている。

「天の川は……七夕?」
「七夕であれば、乞巧奠(きっこうでん)でしょうか?」
「乞巧奠なら、裁縫や刺繍が上手になるよう願う日よね」
「紅梅が施された刺繍の物でしょうか?」
「恐らく…。この部屋には見当たらないから探してみましょう」

ソウォンとジルは他の部屋を探してみるが、紅梅の刺繍が施された物は見つからない。

「無いわね。何かを見落としてるのかしら?」

ソウォンは暗号を訳した紙に視線を落とし、考え直す。
けれど、それらしい答えは見つからず。

「次が『白磁を愛でる』だから、白磁を探してみるのはどうかしら?」
「白磁ですか?見てみます」

ジルは部屋に戻り、白磁を探し始めた。
ソウォンもまた、ジルと反対方向の部屋から開始して、隈なく白磁を探し始める。

公主が亡くなり、殆どの調度品は片付けられている。
花器や香炉といった白磁があるはずもなく。
全ての部屋と廊下に至るまで隈なく探したが見つからなかった。


あと三日しかない。
何としても解明しないと……。

子の刻を過ぎた頃、ダヨンがやって来た。
ジルから状況を聞いているのか、来て早々に暗号を訳した紙を確認している。

「寝れそうにないから、少し付き合って貰えるかしら?」
「はい、勿論です」

ダヨンは温かいお茶を淹れ、いつでも休めるようにと寝床の準備を施し、ソウォンの為に墨をすっていると。

「あっ!」

突然、ソウォンが固まった。

「もしかして、これかもしれないわ」

ソウォンは勢いよく立ち上がり、こくこくと頷く。


< 189 / 230 >

この作品をシェア

pagetop