世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「この御簾、紅梅色よね?」
「言われてみれば、そうですね」
「下ろしてみましょう」
二人は寝床に施された御簾を下ろすと、縁取りに艶やかな刺繍が施され、房紐には白磁の玉が付いていた。
安堵のため息を漏らすソウォン。
少しずつだが、確実に進めていることに胸を撫で下ろす。
「『白磁を愛でる』と言っても、こんな小さな玉をどうやって愛でればいいのかしら?」
親指の頭ほどの小さな玉。
青海波の模様があるだけ。
「この青海波の模様が何かを意味してるみたいね」
指先でなぞりながら、何かに変換出来ないかと思考を巡らす。
「青い海?……波?………川?それとも水?」
思い当たるものを次々に紙に書き出していると、
「白磁は白、青海波は水。これを繋げると『泉』です!」
「あ〜なるほど!」
「ここ景福宮で該当するのは、慶会楼と香遠亭の二ヶ所です」
納得したソウォンは訳した紙を手に取り、次の暗号を読む。
「次は『蜂の巣を探索』だわ」
「蜂の巣ならば、香遠亭でしょうか?東屋が六角形です」
「それだわ!!」
少し前まで行き詰まっていたのに、洞窟の出口が見えたかのように、ソウォンは手応えを感じていた。
「今日はもう遅い時間なので、夜が明けたらお連れします」
流石に暗い中、深夜に後苑を歩き回るのは怪しまれる。
嬪宮が寝付けなくて散歩するとしても、深夜にこそこそしていたら人目についてしまう。
それならば、日中に散歩してる風を装って、人払いした方が良さそうだ。
「では、ゆっくりお休み下さいませ」
深々と一礼したダヨンは、足音も立てずにその場を後にした。
「明日は湯浴み出来るかしら?」
夜着に着替え髪を下ろしながら、ぶつぶつと独り言を呟く。
「こんなにも世子様の近くにいるのに…」