世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「媽媽(王妃や嬪宮、位の高い尚宮等を呼ぶ時の総称)」
嬪宮のダヨンと同じ影の組織(王の秘密組織)の一員である嬪宮付きの女官のシビは女官に扮したソウォンと、同じく影の組織の護衛部隊数名を連れ、香遠亭に到着した。
シビはお供の女官と護衛を下げさせ、女官に間者がいないか?を見張らせる。
その間に嬪宮とソウォンは、暗号の解読を再開した。
シビは二人のそばで万が一に備え、警戒を怠らない。
「暗号は月の満ち欠け、足並み揃えし、無二の友」
ソウォンは池に架かる橋まで舞い戻り、香遠亭を見回す。
どこにも『月』らしきものは見当たらない。
「だとすると……」
ソウォンは香遠亭の壁に張り付くように近づき、目を凝らす。
「『月の満ち欠け』は恐らく、左回り」
ソウォンはダヨンに目配せし、何か変わった所はないか、じっくりと探す。
仕掛けは無いか?
ソウォンは壁のあらゆる所を手で触る。
橋から見える六角形の一面を正面だとすると、ちょうど反対側の面に階梯がある。
ソウォンはチマ(下衣)を摘み上げ、ゆっくりと上がった、その時。
「『足並み揃えし』?」
「どうかされましたか?」
ダヨンは、急停止したソウォンに声掛けする。
ソウォンは何か引っかかるものを覚えた。
「足並みが揃うわけだから…」
ソウォンは自身の足先に視線を落とし、階梯を下りて再確認する。
「足並み揃えし……」
呟きながら、足先を揃えた。
そして、ゆっくりと膝を折り、ダヨンに目配せする。
段の背板にあたる部分の蹴込み板を指差したソウォン。
ダヨンは懐から取り出した小刀を隙間に刺した。
すると、外れるはずの無い蹴込み板が外れ、中に巻かれた紙が隠されていた。