世子様に見初められて~十年越しの恋慕
二人は巻物を広げて中を見るが、何も書かれていない。
「どういう事?」
「年月が経ち過ぎて消えたのでしょうか?」
「そんなまさか…」
思わず顔を見合わせるが、探してみても何も書かれている様子もなく、目を凝らしても墨で書いた気配すらない。
「古い書物だとしても、消える事は無いはず。墨が薄くなるだろうけど、雨風凌げる場所置かれていたわけだし…」
ソウォンは紙に鼻を付けて匂いを嗅ぐ。
何かに浸けたら文字が出てくるかも知れないと思ったのだ。
けれど、埃臭い匂いしかしない。
「経年のせいで、薬で文字が浮かび上がる仕様になっていたとしたら、匂いが消えるかしら?」
「……あるかもしれません」
「ではとりあえず、ここは人目に付くから戻りましょう」
ソウォンは紙を袂に隠しす。
ダヨンは蹴込み板を元に戻し、シビに合図する。
竹の書簡の暗号はもう書かれていない。
手にした紙が真相の答えになるものならば、何としても解読しないとならない。
嬪宮付きの尚宮に扮してダヨンの背後に隠れ、ソウォンは顔を伏せて咸和堂目指して歩き始めた。
香遠亭の池に架かる橋を渡り終え、ぐるりと池を回るようにして歩く。
幸いなことに、咸和堂のすぐ裏手が香遠亭なのだ。
距離はさほど無い。
それでも、宮中の者がいないわけでないし、所々に護衛が配置されているため、散歩をしてる風を装わなければならない。
ダヨンは景色を眺めるように木々に視線を配りながら、咸和堂を目指していると。
「あら、嬪宮。お散歩?」
「智妃様、ご挨拶致します」
咸和堂の裏門にあたる迎祉門をくぐろうとした時に、王の側室の智妃が声をかけてきた。
ダヨンの表情が一瞬強張る。
「あまりにも天気が良かったので、少し散策を…」
「あら、私も」
頷きながら嬪宮に笑みを向けた智妃。
ソウォンに気付く事なく空を見上げ深呼吸する。
「では、智妃様、失礼致します」
「お大事に」