世子様に見初められて~十年越しの恋慕
あまり宮中を出歩かないようにしているダヨン。
王の命を受けている事もあり、いざこざを避けるために、時々体調を理由に床に伏せることをしていた。
そんな嬪宮を気遣う素振りをみせた智妃だが、智妃付きの尚宮や内官、護衛の中に領議政の間者がいるのは明らか。
智妃に会釈し、シビに合図する。
咸和堂の裏門にあたる迎祉門をくぐる予定だったが、咸和堂の一帯は禁足地になっている為、通り過ぎなければならないのだ。
シビは護衛数名に指示を出し、咸和堂の周りを探らせる。
人気がない事を確認して、再び咸和堂に向かった。
咸和堂に無事に到着したソウォン。
早速持ち帰った巻物を広げていると。
「何か必要な物はありますか?」
シビは建物内に異常が無いか確認している横で、ダヨンはソウォンに話しかけた。
「う〜ん、特には」
「では、また後ほど」
「あっ…」
「何か…?」
「あの、……簡単なものでいいのですが、湯浴みは出来ますか?もう三日も入ってないので…」
「そうですよね」
良家の娘のソウォンにとって、何日もお風呂に入らずにいるのは、寝込んでいる時以外ない。
「湯浴みが無理なら足浴だけでも…」
「私が湯浴みする時にお連れします」
「無理言ってごめんなさい」
「いいえ、当然の事です」
ダヨンは護衛に警戒を怠らないようにと指示を出し、居室へと戻って行った。
ソウォンは緊張のあまり乾いた喉を潤すため、白湯を口に含む。
「よし、頑張らないと」
広げた紙を凝視して、何処かに異変がないか確かめる。
蝋燭に火をつけ、炙ってみたが変化はない。
「んん?」
ふと、紙が厚いことに気がついた。
書物の表紙や掛け軸などの用紙であれば、厚くても違和感はないが、文に使うような紙であればもう少し薄いのが普通。
ソウォンは紙の端を指で擦ってみる。