世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第十二話 刺客


「さっぱりしたわ。御礼を言うわ」
「とんでもありません」

嬪宮が湯浴みする際に世話係としてソウォンは湯殿の部屋に潜入し、手早く湯浴みを済ませた。
嬪宮の寝所がある資善堂(ザソンダン)に到着したソウォンとダヨン。
髪を乾かしながら小声で会話していると、ダヨンはシビに人払いをさせた。

「世子様にお会いになりますよね?」
「え?」
「ここ、資善堂は世子様と嬪宮の居所がある殿閣なので、世子様のお部屋はすぐそこです」
「ッ?!」
「女官達を下げさせてあるので、今なら」
「………」

ダヨンの気遣いだと直ぐに分かったが、すぐそこと言われても本人がいるかどうかは分からない。
いたとしても、誰かに見られる危険もある。
今は王命を解決するのが先決だ。

「いえ、咸和堂に戻ります」
「宜しいのですか?」
「はい。今は暗号を解くのが使命ですから」

ソウォンはこくこくと頷き、髪を整える。

「そうだわ!」

ソウォンは香遠亭から持ち帰った紙をダヨンに見せ、自身の読みを伝える。
すると、ダヨンは火鉢から炭を取り出し、紙の上に這わせるようにしながら表面に炭を擦り付けた。

「なるほど、炭があったわね」
「これなら簡単に浮かび上がるかと」

紙のあちこちに凹みがある部分は少し白く残り、残りの部分は炭色に染まると、絵らしきものと幾つかの文字が浮かび上がった。

「何かの記号でしょうか?」

ダヨンが紙をゆっくり旋回しながら確認する。

「この、上下左右にある絵柄は恐らく……四獣を表してると思う」
「あ、なるほど。門の位置に当て嵌めたら白虎、朱雀、青龍、玄武ですね」
「えぇ」
「この中央のは王様ですね」
「恐らく」
「では、この文字は何を意味してるのでしょうか?」
「まだ分からないの。ずっと考えても検討も付かなくて…」

ソウォンは深い溜息を零した。


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