世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第十三話 王の涙

※ ※ ※

数日ぶりの深い眠りから目覚めると、寝ている間に自分の身に何が起こったのか分からず、頭が混乱する。

確か、世子様と手を繋いで眠りについたはずが、目覚めると彼の腕の中にいるではないか。
不覚にも無意識にしがみついてしまったようで、彼の温かい胸に埋まる形で。
穴があったら今すぐ入りたい。
ううん、今すぐここから出て、消え去りたい。
未婚の身で、一夜を男性と同じ布団で夜を明かすとは。

世子様が寝付いたら離れるつもりだったのに。
数日ぶりの安堵感に、つい睡魔に負けてしまった。

世子様を起こさぬようにそっと体を離そうとした、その時。
彼が体を丸め、美顔が目の前に急接近!
世子様が目覚めたのかと思い、無意識に彼の顔を凝視する。
けれど、瞼は開かず、心地良さそうな寝息を立てている。

長い睫毛、形のよい眉、すっと鼻筋の通った高い鼻。
そして、寝息を立てる柔らかい唇。

許可も無く拝顔するのは大罪なのに、そんな事も忘れて見惚れてしまう。

「見飽きぬのか?」
「っ?!!」

突然開いた口元から発せられた言葉。
返す言葉もない。
瞼は開いてないし、世子様の顔に触れてもいないのに、何故、盗み見してるのが分かったのだろうか?

寝たふりをしようと瞼を閉じてじっと身動きせずにいると、拘束する腕が更に強まり、額に柔らかい感触を感じた。

「起きないなら好き勝手するぞ?」
「っ?!おおおお、おっ、起きてます!!」
「フッ」

目を開けると、先ほどより間近に美顔がある事に驚き、思わずのけ反ってしまう。
そんな反応にも楽しそうに鼻で笑う世子様。
何もかも見透かされているようだ。

「しっかり休めたか?」
「は、はい。……お陰様で」

世子様は寝起きで乱れている髪を優しく流して下さり、満足そうに微笑む。
すると、部屋の外から鈴の音が聞こえた。


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