世子様に見初められて~十年越しの恋慕


そよ風に吹かれて微睡んでいると、突然首筋がひんやりとし、心地よい眠りから覚めるような白檀の香りが鼻腔を掠めた。
それが、サンシュユの香りとは違う事に違和感を覚え、瞼を押し上げると。

「キャッ!!」

パチンッ。
見ず知らずの男が胸元に顔を寄せていた。
ソウォンは驚き、瞬時に男の頬を叩いていた。

「何するつもり!?」
「誤解だ!」
「誤解ですって?!」

ソウォンはすぐさま男から離れ、胸元を覗き確認する。
何かされた様子はないが、用心の為、ぎゅっと両手で胸元を覆い、男に鋭い視線を向けた。

「誤解だ。私は何もしておらぬし、するつもりもない」
「嘘よっ!さっき、私の胸に顔を寄せていたじゃない!」
「だから、それは……」

男は溜息まじりで両手を上げた。

「そなたが青白い顔をしていたし、声をかけても反応が無かったから、死んでいるのかと思ったのだ」
「……へ?」
「だから、脈診を取り、心の臓の音を確認したまでだ」

身振り手振りで真剣な表情で話す男。
その言葉に耳を傾けると……。

「あっ……」

言われてみれば、首筋にひんやりとした感触があったのを思い出したソウォンは、

「手」
「手?」
「えぇ、私の手を握ってみて」

ソウォンは自分の手を男の前にスッと差し出した。
男の手を握れば分かると思ったのだ。

恥辱の視線を向けたかと思えば、次は正反対の態度をとるソウォンに警戒する男。

「いいから、握ってみて」
「……………こうか?」


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