世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ヘスのいる場所から三段上がった所に足置き場となる台座がある。
その台座を手で触ったソウォンは、王に視線を送る。
「ここの板を外しても宜しいでしょうか?」
「構わぬ。ジル、壊しても構わぬから、この者の言う通りにせよ」
「御意」
尚膳のすぐ後ろに待機している護衛のジル。
王の命令で台座へと歩み寄り、刀の柄頭で朱塗りの台座板を貫いた。
ソウォンは抜かれた板の部分に手を差し入れ、中を探る。
すると、中から木箱が現れた。
だが、開けようとしても鍵穴らしきものすらない。
「仕掛け箱のようです」
ソウォンは深呼吸して、箱の仕掛けを読み解く。
この手の仕掛けは朝飯前。
ソウォンは手の感触と施された模様を考慮して、細工を動かし始めた。
「開けれそうか?」
「はい、王様。ここを右にこちらを左に、更にこの面をこちらに動かせば…」
真剣な表情で細工を動かすと、ソウォンの手が止まった。
ゆっくりと蓋を開けると、中には小さな筒と紙が。
四つ折りに折られた紙を王は丁寧に開く。
『ギョン公主様は暗号が書かれた竹の書簡をミン尚宮に託し、ナム・ヨンギル様(公主の許嫁:現在の戸判、嬪宮の実父)へお届けするように命じられました。
けれど、何者かに命を狙われているようで、その書簡は護衛である自分が届けました。
すると、自分も何者かに狙われているようです。
常に気配を感じます。
ナム・ヨンギル様へ届けた書簡とは別に、ギョン公主様から文筒を預かりました。
鄭寿世子様(テスセジャ:現在の国王が世子時代の呼名)から贈られた物だそうで、開けれるのは鍵を持っている鄭寿世子様だけだと。
公主様から“ 誰にも見つからない場所へ”と命を受け、この血書と共に託す事にします。
玉座に手を掛けるのは大罪と承知の上。
この命をもって償う所存です。
この血書が誰かの目に触れたという事は、公主様の身に危険が生じた証です。
鄭寿世子様、王様。どうか、公主様の文を』