世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「これは公主と二人で作った歌だ。痛みを和らげる為に公主の好きな物を取り入れ、世が作ったもの」
至密尚宮(チミルサングン:王の側付きの尚宮)のチョン尚宮は、遠い過去を思い出し懐かしみ涙を拭う。
王が世子の頃から使えている為、公主との思い出深い記憶が蘇ったようだ。
「王様、恐れ入ります。私も拝見致しとうございます」
「無礼な」
ソウォンの言葉に、間髪入れずに口出しする領議政。
ソウォンはひれ伏す形で床に頭を付けて懇願する。
「良かろう。この一件はそなたに全権を委ねておる。どんな些細な事でも構わぬ。気になる事があるなら、遠慮なく申せ」
「有り難きお言葉。恐悦至極に存じます」
重臣らが見守る中、ソウォンは震える体を奥歯を噛み締めて堪えていた。
尚膳から受け取り、ソウォンは最後の紙を凝視する。
胸の奥に引っかかるものがあるからだ。
「何か分かる事があるか?」
「はい、王様。筆をお借りしとうございます」
「尚膳、この者に筆を」
「承知しました」
ソウォンは歌の詩の文字を遠目にし、何かに気付く。
右上から四文字間隔で印を付ける。
詩は自由を夢見る公主を表したもの。
本人が書いたものだから『私』を意味し、読みにすると『サ』、数なら『四』を表す。
印を付けた文字を繋げると、とある人物が毒殺したと記されていた。
しかも、証拠が隠されている場所まで。
「領議政チョ・ミンジェを直ちに捕えよ!」
王の声が響き渡る。
「世子、今すぐ証拠の品を持って参れ」
「承知しました」
※ ※ ※
「無事に送り届けたか?」
「はい、世子様」
王が手配した護衛の後を追い、ソウォンが無事に帰宅するのを見届けるように仰せ使ったヒョク。
ヒョクの報告で漸く安堵した。
「後は報告書を書くだけだから、先に休め」
「はい、世子様」