世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第十四話 国婚の儀

※ ※ ※

勤政殿で領議政と不正に関わった者らを捕らえた数日後。
王は自ら尋問をし、領議政は職を罷免したうえ全財産を没収し、斬首とした。
また一連の件に関与した者を全て取り調べ尋問したのち、斬首、賜薬、流刑等の処罰となる。


「ジル」
「はい、王様」
「あの娘が持っていたのは、世子のパンジだったか?」
「はい」
「フフッ」
「どうかされましたか?」
「いや、あの者を嬪宮に据えるのに良い名分を探していたが、まさかトルパンジを持っていたとはな」

王は顎髭を摩りながら満足そうに笑みを浮かべた。
公主の暗号を解く際、預けておいた簪鍵(王が世子時代に着けていた簪を仕掛けの鍵に加工したもの)を取り出した時に革紐に括られていたパンジ。
世子のトルパンジには龍の紋章が描かれている。
代々大妃などから授かる吉祥の指輪。
世に二つとない代物で、内側に王と王妃(世子の両親)の名が記されている。

「膳尚」
「はい、王様」
「戸判と都承旨(トスンジ:王命の伝達及び王への報告をする承旨の長)、嬪宮を呼んでくれ」
「承知しました」

王は公主の文に指を這わす。
そこには王宮から出ることの出来なかった公主が、唯一楽しみとしていた押し花がふんだんにあしらわれていた。

世子時代、執務の合間に菓子を届けると、いつも楽しそうに押し花をしていた。
その姿が鮮明に浮かび上がり、王の胸は温かいもので満たされた。

「公主様からの最高の贈り物ですね、王様」

世子時代から使えている女官が目に涙を浮かべながら王の心に寄り添う。

※ ※ ※

「戸曹判書ナム・ヨンギル、王様に拝謁致します」
「王様、嬪宮ダヨン、拝謁致します」
「楽にせよ」

勤政殿の前にある大広場から扁額を見上げている王の前に、二人が現れた。
戸曹(ホジョ:現在の企画財政部)は光化門(カンファムン:南の正門)の南に位置している官庁な為、呼び出しに直ぐに応えることが出来る。


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