世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「ヨンギル、長く待たせたな」
「いえ、王様。王様こそ、漸く長年の憂いから解放される日が…」

三十年余り前、ヨンギルの許嫁であった公主が亡くなった事で、二人は誓い合ったのだ。

翌日にヨンギルの誕生日を控え、王宮の外に出れない公主の為に、ヨンギルが王宮へと出向く事になっていた。
ヨンギルの生誕祝いとして、密かに贈り物を準備していた公主。
恋慕の相手が逢いに来てくれるのだから、心待ちにしていただろう。
そんな日の前日、公主は突然亡くなった。
御医は心の臓の発作からの急死と扱ったが、納得のいかない二人(当時の世子とヨンギル)は、原因を徹底的に調べると誓ったのだ。

婚姻は親が決める時代に、愛で結ばれる夫婦は珍しい。
お見合いを経て容姿や会話のやり取りで決められるなら贅沢な方だ。
家柄を重視して勝手に親が決め、数日後には婚家に嫁ぐのもよくある話。
そんな時代に、お互いが心から慕う相手に出会える事すら奇跡である。

何年もかけて愛を育んで来た二人をずっと側で見届けていた世子だからこそ、親友のヨンギルの悲しみに寄り添えたのだ。

「ヨンギル、本当に良いのだな?」
「はい、王様。漸く、公主様への想いに憂いなく寄り添う事が出来ます」

ヨンギルは澄み渡る青空見上げ、公主への想いを馳せている。
すると、そこへ都承旨が。

「都承旨ハン・マンボク、拝謁致します」
「楽にせよ」
「恐れ入ります」
「都承旨、聖旨を」

王の表情が一変した。
ヨンギルと嬪宮のダヨンはその場に腰を下ろし、拝礼する。

「戸曹判書ナム・ヨンギルは長年の功績を称え、漢陽の郊外に屋敷を与える。また、戸曹判書の職を解くと共に隠居し、余生は心穏やかに暮らすが良い」
「身に余るお言葉、恐悦至極に存じます」




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