世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「嬪宮ナム・ダヨンは体調が思わしくなく、回復する見込みがなく国事(世継ぎも授かる)を担う事が長年果たせず。また今後も果たせぬ故、廃嬪とし、仏国寺に入寺とする」
「ナム・ダヨン、王命賜ります」
「ダヨン、よく世子に尽くしてくれた。そなただからこそ今日という日を迎える事が出来たのだ。礼を言う」
「滅相も御座いません。有難きお言葉、恐悦至極に存じます」
「シビも連れて行くがよい」
「王様…」
ダヨンを熟知している王は、優しく微笑む。
影の組織の一員として育て上げた中で、世子に害を与えぬ存在が必要であった。
大事な世継ぎである世子の妃としての任を全う出来る者。
邪な考えを持たぬ者を探す事は奇跡に近い。
そんな中、異性に感情を持たぬという珍しい存在がダヨンであった。
万が一、世子がダヨンを見初めたとしても、生涯影として生きることを誓った故、万が一の時は自害するように命じられていた。
幸いにも、世子には心に決めた女人がいた為、今日という日を迎えられたのだ。
ダヨンの相手がシビである事も承知している王は、二人を組織から解放することにしたのだ。
ヨンギルとダヨンは深々と拝礼した。
「都承旨、聖旨をもう一つ」
「はい、王様」
「大提学カン・ジェムンの娘カン・ソウォンは、聡明かつ天賦の才により此度の一件を解決した故、その功績を称え、金十両、銀百両、絹五十疋、綿百疋を与える。また、先帝の意とし、正式に世子嬪として迎える。半月以内に入宮し、その後、速やかに国婚の儀を執り行うとする」
「しかと承知しました」
都承旨は尚膳と共に拝礼する。
漸く全ての事から解放された王は青空を見上げる。
『ギョン、これで納得してくれるか?』
王としてではなく、妹想いの優しい兄として誇らしく胸を張った。