世子様に見初められて~十年越しの恋慕

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十日ぶりに抱き締めた最愛の女人。
ぎゅっと抱き締めたら骨が折れてしまいそうなほど華奢で、艶やかな黒髪から香油の良い香りが漂う。

「逢いたかった」

近くにいる女官にも聞こえぬほどの小声で囁くと、彼女の肩がぴくりと動いた。
聞こえたようだ。

ゆっくりと腕を解き、ソウォンを真っすぐ見つめる。

「痛めたのはどっちだ?」
「はい?」
「右か?それとも、左か?」

正殿から自宅屋敷へと帰した夜。
ジルから報告を受けたヘス。
領議政の息子に拉致され、肩を脱臼したのだと。
しかも、救出後にジルによって処置されたと聞かされたのだ。

ヘスはソウォンの肩を優しく摩る。

「あ、こっちです。もうすっかり治ってますので、ご心配には及びません」

ソウォンは思い出しようで、ヘスに笑顔を見せる。

「よいか?今後は私がいない所で、他の男に処置させるな」
「………」

分かっている、嫉妬しているのだと。
けれど、どうにもならないほど、心が落ち着かぬのだ。

「やれやれやれ……来て早々……」
「直ぐにでも孫の顔が見れそうだわ」
「王様、王妃様」

財成門(ヂェソンムン:交泰殿の西にある小門)から姿を現した国王と王妃。
ソウォンが到着したと聞き、様子を見に来たのである。

ヘスとソウォンの周りにいる女官、内官、護衛の武官は一斉に拝礼する。
ヘスとソウォンも衣を正し拝礼すると、満面の笑みを浮かべながら王と王妃がヘスたちのもとへと。

「王様と王妃様、拝謁致します」
「楽にせよ」
「恐れ入ります」
「あなたが大提学の娘のソウォンね」
「はい、ソウォンにございます、王妃様」
「甘やかして育ててしまった息子だから大変だと思うけど、どうか宜しくね」

白魚のような華奢な手がソウォンの手をそっと握った。


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