世子様に見初められて~十年越しの恋慕
国政には一切関与しない王妃として有名で、水面下で権力を誇示する国母も多い中、ヘスの実母である王妃は明るく実直で温厚な性格の持ち主。
ヘスは母親に似たのかもしれない、そうソウォンは感じた。
「困ったことがあれば、いつでも頼ってね」
「恐悦至極に存じます」
「そんな畏まらなくていいのに…」
ソウォンに優しく微笑みかける王妃。
王もまた、同感だと言わんばかりに小さく頷いた。
「王様、二人の邪魔をしては無粋ですわ。我々は別の場所にでも」
「そうだな」
王と王妃は女官や内官、護衛を引き連れ、香遠亭の方へと向かっていった。
「うちらも散策をするとするか」
「へ?」
「尚宮」
「はい、世子様」
「今後の予定は?」
「本日は特にございません。王宮内をご案内するよう仰せつかっております」
「ならば、私が案内するゆえ、皆下がっていろ」
「ですが……」
「下がれと言ったのが聞こえなかったか?」
「いえ、…………承知しました」
凄みのある声音で制したヘス。
満足そうにソウォンの手を握る。
「ヒョク」
「はい、世子様」
「近づかないように見張ってろ」
「御意」
ヒョクは女官達に威圧するかのようにヘスの前に立ちはだかった。
「行くぞ」
「………はい」
ヘスは人目を憚ることなく、堂々と手を繋いだまま歩き出す。
まるで、王宮内にいる者に見せびらかすかのように。
「食べたい物はあるか?」
「食べたい物ですか?」
「後で届けさせるが…」
「特には……」
「歩き回ったら喉が渇くだろ」
「………そうですね」
「一周したら一緒に茶でもどうだ?」
「執務がおありなのでは?」
「急ぎのものは済ませたゆえ、大事ない」
歩きながら微笑ましい会話が続く。
こんなひと時がこの先ずっと続くのだろうか?
ソウォンは隣を歩くヘスの顔を見上げた。