世子様に見初められて~十年越しの恋慕

「世子様」
「ん?」
「夢ではありませんよね?」
「フッ、当たり前だ」
「未だに信じられなくて……」
「それは私も同じだ」
「え?」

足を止めたヘス。
ゆっくりとソウォンの方に体を向け、ソウォンの手を引き寄せた。

自然とヘスの腕の中に捕らわれたソウォン。
何度起きても慣れないようで、華奢な体がぴくりと跳ねる。

「今はまだ正式な嬪宮では無いが、父上が了承しているゆえ、王宮内の者は同等に接するはずだ」
「………はい」
「それと、そなたの翟衣(チョグィ:大礼服、婚礼衣装)がまだ仕上がってないらしく、婚儀は五日後だ」
「………はい、伺いました」

衣装が用意出来てるのならば、直ぐにでも婚儀を挙げたいヘス。
誰かに邪魔をされては、この十年待ち続けたのが水の泡になってしまう。

逸る気持ちと不安な気持ち、一刻も早く安心して落ち着きたいのだ。
ヘスはソウォンの額にそっと口づけした。

「あ、忘れるところだった」
「ん?」

ヘスは袂から小さな巾着を取り出す。
中からオクカラクジ(一対になっている玉の指輪)を取り出した。

「婚儀が無事に終わったら、これを」
「綺麗な色」

(一対の指輪は夫婦を意味し、戦に出向く夫に片方を持たせ、万が一の時はそれを目印にしたという)

白みに薄っすらと紅色がかった本翡翠の硬玉に銀で鳳凰の細工を施した指輪。
自ら模様を考案し、作らせた一点もの。

「大切にしますね」

大事そうに手にしたソウォン。
瞳から大粒の涙が溢れ出す。
そんなソウォンの涙を指先で拭い、ヘスは胸を撫で下ろす。
突き返されたらどうしようかと、気が気で無かったのだ。

いつだって言い寄るのは自分の方だけ。
一方的に気持ちを打ち明けるだけで、ソウォンから了承の言葉を貰ってない。

初めてソウォンから了承とも思える言葉『大切にしますね』が聞けたのだった。

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