世子様に見初められて~十年越しの恋慕
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景福宮の正殿である勤政殿の前にある大広間には、今か今かと待ち侘びる文武百官が集まっている。
中央の石畳を挟み、左右に建てられた品階石。
公式行事の際に品階に応じて立ち位置が分かるようにしたもので、西側の一番正殿に近い所が正一品、その後ろが正二品、正三品と続き、東側の一番正殿に近い所に従一品、その後ろに従二品、従三品…と続く。
領議政チョ・ミンジェを始め、その一派を一掃した為、整列してい顔ぶれは見慣れない者が多いが、国王と世子を支えていく大事な臣下たち。
皆晴れやかな表情で待ち侘びていた。
大広間から正殿へと上がる階梯には、中央に王を乗せた輿が通る踏道があり鳳凰が刻まれ、階梯には唐草模様が施されている。
また正殿を守るかのようにあちこちに瑞獣(魔よけの意味を持つめでたい動物、龍や双獅子など)を象った石像が建てられている。
月臺(月見台)には掌楽院(チャンアグォン:宮中における音楽担当の官庁)の楽工(アッコン:楽師)などが華やかに演奏し、その脇に図画署(トファソ:絵画に関する業務を行う官庁)の画員(ファオン:絵師)が真剣な表情で筆を走らせる。
更にその上の月臺には、既に国王と王妃、大妃が談笑しながら待ち侘びていた。
すると、正殿南の勤政門(クンジョンムン)から九章服(クジャンボク:最も格式の高い大礼服、黒色の衣装)姿のヘスと、翟衣(チョグィ:最も格式の高い大礼服、赤色の衣装)姿のソウォンが正装した内官と女官に連れられ姿を現した。
九章服には九つの紋章が黒字に刺繍され、両手で青玉で作られた圭(キュ:笏)を持っている。
翟衣には鴉青色の雉紋が三十六個刺繍が施され、髪は大首モリ(テスモリ:末広がりの三角形の形をした鬘)に眩いほどの宝飾が施された鳳凰の簪が幾つもあしらわれている。