世子様に見初められて~十年越しの恋慕
冕旒冠(ミョルリュグァン:九章服の時に被る冠、天板が平たく前後に五色の玉が九本ずつ垂れている)を被ったヘスは、横をぎこちなく歩くソウォンを気遣い、ゆっくりとした足取りで進む。
緊張と慣れない衣装、更には重量感のある加髢(カチェ:鬘)姿な為、今にも転びそうで冷や冷やしてならない。
「ゆっくりで大丈夫だ、ソウォン」
「…………はい」
ソウォンの手を取り王のもとへと進みたいところだが、流石にそれは出来ない。
ヘスに唯一出来るのは、歩幅を合わせてゆっくり進むだけ。
見守るしか出来ない自分に焦りが滲む。
ソウォンの両親と兄を始め、文武百官が見守る中、ヘスとソウォンは正殿前に辿り着いた。
祭壇が設けられており、正装姿の女官が踵を返す。
尚膳により粛々と執り行われ、残りは拝礼のみ。
ヘスは横目でソウォンを追うと、ソウォンは介添えの女官に支えられながら姿勢を正した。
「陛下に拝礼~」
高々と尚膳の声が王宮内に響き渡る。
ヘスとソウォンは深々と国王に向け拝礼する。
「先祖に拝礼~」
ヘスは踵を返し、文武百官の方へと向き直る。
ソウォンもまた、介添えを得ながら向き直り、両親が見守る中、深々と拝礼する。
「お互いに礼を~」
ヘスはソウォンの方へと向きを変え、冕旒冠の玉越しにソウォンを見つめると、ソウォンはヘスの方へ向きを変え、恥ずかしそうに頬を赤らめながらゆっくりと拝礼した。
「以上、ここに二人を夫婦とする~」
「万歳、万歳、万々歳~、万歳、万歳、万々歳~……」
女官、内官を始め、文武百官が拝礼しながら祝言を唱える。
その声を聴き、ヘスは漸く安堵した。
「おめでとうございます」
介添えの女官に祝われやっと我に返ったようで、ソウォンから笑みが零れた。
「ソウォン」
女官からソウォンの手を受け取ったヘス。
愛でるように優しく摩り、蕩けるような笑みを。