世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「もしや…………そなたなのか?」
「…………へ?」
「十年前、…………私の濡れ衣を晴らしてくれた娘が…………そなたなのか?」
「ッ?!」
男の視線が一瞬で穏やかになった。
あの時と同じようにソウォンの頬に吐息がかかる。
間近でじっくりと顔を見ると、鼻筋が高く切れ長の目、キュッと結ばれた口元はあの時と瓜二つ。
ソウォンの瞳に映る男と、十年前の少年の姿がぴたりと一致した瞬間。
ソウォンの胸は激しく高鳴った。
「貴方が…………あの時の………?」
「では、やはり………」
「えぇ」
ソウォンの返答に納得した男はフッと口元を緩め、柔らかな笑みを浮かべた。
「少し話さぬか?」
「…………はい」
男は腰を下ろし、昔を懐かしむかのように空を見上げた。
「何故、揀擇に………」
「ッ?!」
男の言葉で十年前の出来事が鮮明に蘇った。
あの時、彼は間接的に揀擇にソウォンが参加するようにほのめかしていた。
揀擇に関してやけに詳しいことも気になっていたが、たった今、彼の表情をすり合わせ読み取ると……。
やはり彼は、彼の言う通り、正真正銘この国の世子だという事が分かる。
初揀擇に選ばれたどうかは、本人や家族なら分かるが、見ず知らずの男が知る筈もない。
しかも、彼はとても残念そうな表情を浮かべている。
それは紛れもなく、ソウォンが揀擇の場にいなかったことを知る者。
―――――本人だという意味だ。