世子様に見初められて~十年越しの恋慕
「名を何と申す」
「へ?」
突然名前を尋ねられ、思考が停止した。
「そなたの名だ」
「…………ソウォン。ソウォンと申します」
「ソウォンか、良い名だ。私はヘス、………イ・ヘスだ」
ゆっくりと腕が解かれ、彼の顔が目の前に現れた。
「そなたの事が気に入った」
「………へ?」
右手をそっと握り、蕩けそうなほどの優しい笑みを浮かべ、心地よい声音で囁く。
それはまるで、美しい花でも愛でるみたいに。
一度でも極刑に値するのに、二度も手を上げてしまった。
もしかすると、打ち所が悪かったとか?
危険を察知して無意識に叩いていたから、力加減が出来なかった。
そうよ、そうに違いない。
私ったら、なんて事をしてしまったのかしら。
これでは、両親は勿論の事、一族諸共斬首の刑に処されてしまうわ。
ソウォンの瞳に涙が浮かぶ。
皆にお転婆だと言われても、個性だとしか思ってなかった。
他の娘達より、ほんのちょっぴり活動的なのだとばかり。
だが、そんな甘い考えは、一瞬で消え去った。
みるみるうちに体が震え始め、溢れんばかりの涙が……。
「おいっ、どうしたのだっ!何故、泣いている」
世子様はお優しい。
お手打ちにするどころか、私の心配などして……。
その言葉が更に拍車をかけた。
すると、頬を伝う涙をそっと拭う世子。
優しくするその姿に、ますます胸が苦しくなった。
いっそのこと………。