世子様に見初められて~十年越しの恋慕


「世子様っ……。どうか、……どうか、私の命だけでお許し下さいませっ………」

世子の手を振り解き、ソウォンは地面に両手をついた。

ソウォンは必死だった。
自分がしでかした事がどれほど重い罪なのかという事を……。
だが、何の罪もない両親や兄、更には一族の命を簡単に奪う訳にはいかない。

両班の娘として大事に育てられて来たソウォンは、生まれて初めて跪いた。
自尊心などあっても無意味なのだと知っているからだ。

震え出す体を必死に堪え、ぎゅっと目を閉じ奥歯を噛みしめた、その時。

「ハハハッ。そなたは実に面白い」

地面についた両手を握られたかと思えば、ぐっと体が起き上がる。

「私の期待を裏切らないな」

意外な言葉に驚き仰ぎ見ると、鼻先が触れそうな距離にトクンッと心の臓が音を立てた。

「そなたをもっと知りたい。……見てて飽きぬ」
「っ……」

頬にかかる温かい吐息。
高貴な白檀の香りも相まって、ますます早まる胸の高鳴り。

顔を上げて良いと言われるまで、決して上げてはいけないのに……。
それに、こんな間近で拝顔してはならぬというのに……。
駄目だと分かっているのに瞬きする事さえ忘れ、見惚れてしまう。

それほどまでに、未だかつて見た事のない程の美顔がそこに。

「近くで見ると、ますますそそられるな」
「ッ?!」

長くしなやかな人差し指の背が頬を撫でる。
ゆっくりと頬から顎に伝い、微笑した視線は緩やかに降下して。
ひんやりとした親指が下唇をそっと拭った。

「……柔らかい」
「っ……」

息する事さえ拷問のようで……。


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