世子様に見初められて~十年越しの恋慕
第四話 銀白色の粉
「一体、何が原因なのだ」
「世子様……」
忠清北道の清州にある上常山城(サンダンサンソン:統一新羅の時代に築城したとされる山城)。
城壁は城だけでなく集落ごとぐるりと囲むように築かれているのが特徴の山城。
その山城の東将台(トンジャンデ:四方を見渡せる羨望の良い場所に作られた指揮所)で、深いため息を吐く世子のヘス。
そして、その隣にはヘスの護衛をしている親衛隊長のシン・ヒョク。
彼はヘスより一回り年上で、剣術の腕は朝鮮一と言われている男。
二人は東将台から清州の街を見下ろしていた。
朝鮮は数年前から全国各地で水害の被害が相次いでいる。
特にここ数年、忠清北道に被害が集中し、大洪水により流失した民家は数千戸、圧死者は数百人にも及ぶ。
それゆえ、一刻も早く原因を突き止め対策を施さねばならない。
王は重臣達に再三に渡り原因を解明し、早急に対応するように命を下したのだが、一向に改善された様子はない。
朝廷を牛耳る重臣達は自分達の腹が痛まぬゆえ、所詮他人事なのだ。
地方では、名のある儒学者達が己の財を投げうっているという。
そんな噂を耳にした王は、もはや重臣達に任せておけぬと判断したのだ。
民の不満は募るばかり。
その矛先は王へと向けられている。
実際、全国各地から上奏が絶えないのだ。
王は世子に、表向きは天災にあえぐ民を想い祈祷参りと称し、実は暗行御史(アメンオサ:官吏の監察を秘密裏に行う密命を受けた者)の命を下していた。