世子様に見初められて~十年越しの恋慕
世子は、洪水の原因を突き止める為に被害があった清州の錦江(クムガン:朝鮮南部の主要河川)近郊を調査していた。
数日にわたり調べを進めていたが、決定的な原因を突き止める事が出来ずにいる。
そんな折、たまたま寄り道した山中であの時の娘に再会した。
十年という歳月の間に、ますます美しく成長していた娘。
初めて会った時から目を奪われるほどの美貌の持ち主だったが、年を重ね色香も相まって、見た目だけでなく、心まで一瞬で奪われてしまうほどだった。
「世子様?」
「っ……、何でもない」
ヘスはふと昨日の出来事を思い出し、無意識に顔が綻んでいた。
「街の様子は……?」
「決壊箇所はあらかた修繕されたようですが、雨期が来れば水位が上がり、危険な状態かと……」
「何か良い手立ては無いものか……」
ヘスは再び城下を見下ろし、溜息を漏らす。
「この目で確かめねばならぬな」
「………はい」
世子は拳を握り締め、決意を新たにした。
――――必ず、原因を突き止めてみせる、と。
世子は身分を隠し、両班の男性が着用する服を身に纏い、街の中心部を訪れた。
夕暮れ時という事もあり、酒場は賑わいを見せ、妓房へと入っていく男どもの姿が目についた。
「如何されますか?」
「………そうだな、もう少し歩いてみる」
「はい、世子様」
ヒョクは部下数人と共にヘスから数歩離れ、ゆっくりと後を追う。
男が数人集まって歩いていれば、目立ってしまうからだ。
ヘスは市場内を歩きながら、耳を立てていた。