世子様に見初められて~十年越しの恋慕


 * * *

漢陽への帰途についているソウォン達。
漸く忠清北道の清州に辿り着いた。

旅籠がある市場通りへと近づくにつれ、行き交う人が多くなって来た事もあり、すれ違う人々に怪我をさせまいと馬を降りた、その時。

「ん?………この匂いは……!」
「お嬢様っ!!」

ソウォンはチョンアの声を無視して駆け出した。

ソウォンが馬から降りれるように手綱を手にしている為、ユルはソウォンの後を追う事が出来ない。
自分の馬の手綱も合わせてチョンアに託すことも出来ず……。

あたふたしている間に、ソウォンの姿を見失ってしまった。

「ユルっ、お願い!先に行って!!」
「…………分かった」

ユルは仕方なく、ソウォンの馬と自分の馬の手綱をチョンアに手渡し、ソウォンの後を追った。



「あそこね?!」

ソウォンの視線は十数軒先の饅頭屋に固定された。

早朝から小さな握り飯しか食べておらず、ソウォンの胃袋は限界に達していた。
旅籠を出る際に握り飯を貰っていたが、女性だからと手のひらにちょこんと乗る程度の握り飯が二つだけ。
年頃の女子ならそれで十分賄えるのだが、ソウォンに至っては到底無理というもの。
下手したら、働き盛りの男性よりも食べるのだから、空腹にならない筈はない。

ソウォンは一心不乱に饅頭屋を目指していた。
すると、

「っ……」
「おいっ、どこに目付けてんだ!危ねぇじゃねぇかっ!!」


< 30 / 230 >

この作品をシェア

pagetop