世子様に見初められて~十年越しの恋慕


大きな甕を載せた荷車と接触してしまった。
ソウォンは咄嗟に避けようとしたが、荷台の淵に左腕をぶつけてしまった。
しかも、そんなソウォンを邪魔だと言わんばかりに振り払おうと突き飛ばしたのだ。


何処かの商団の者に違いないが、その横暴さに言葉も出ない。
確かに商品は大事だ。
預かった荷の取引が終わるまで、油断が出来ないのも理解出来る。

だがあんな風に、人通りの多い市場内を暴走するかのように駆け抜けるのは言語道断。
荷を運ぶ以前に、商人としての資質が問われる。

「これは審薬(シミャク:地方から宮中に納められる薬剤の審査・監察する官吏)様へ届ける大事な薬剤なんだぞ!」
「っ?!」
「何かあったら、どう責任を取るつもりなんだっ!?」

物凄い剣幕で捲し立てる男。
“宮中に納める”ということを高らかに掲げ、横柄な態度を取っている。
まだ、宮中に納められるかどうか、審査に合格した訳でもないのに……。

「ったく、気を付けやがれっ!……行くぞ!」

男たちはペッと唾を吐き、足早にその場を後にした。

ソウォンは荷車が去った場所に手を伸ばした。

「………これは……?」

甕から零れ出した粉状のものを指先で確認していると、

「大丈夫ですか?」
「っ?!」
「お怪我はありっ、腕を怪我してるじゃないかっ!?」

見知らぬ男性が、地面に倒れた状態の体を支え起こす。
ソウォンは視線を指先からその男性へと移すと。

「はっ!………せっ、世子様っ」
「ッ?!何者だ!!」

ソウォンは笠から垂れ下がる薄絹の布越しに顔を確認した。
すると、そこには……両班の服装をした世子が……。
世子のヘスは、自分が何者か知っている女の肩を強く掴んだ。


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