世子様に見初められて~十年越しの恋慕
ソウォンは顔を隠すように垂れ下がっている薄絹をそっと捲った。
「おっ、そなたは……」
ソウォンの顔を見て驚くヘス。
まさか、こんな所で再会するとは……。
ヘスはすぐさま掴んでいる手を背中へと回し、ゆっくりと立たせた。
「手当てをせねば……」
「私は大丈夫です」
「大丈夫なわけないだろ」
チョゴリの布越しに血が滲んでいる。
ヘスはソウォンの怪我を気にして、近くにいるヒョクの姿を探していると。
「世子様はどうしてここに?」
「ん?………ここへか?」
「はい。王宮にいる筈なのでは……?」
「それは……。これには、事情があって……」
「…………そうですか」
部外者が口を挿むのは無粋というもの。
しかも、それが世子なのだから、声を掛ける事すら憚れる。
ソウォンはヘスからそっと離れると、
「まずは、怪我の手当てを先に……」
「ご心配には及びませぬ」
「そなたが大丈夫でも、私が平気でいられぬのだっ!頼むから、手当てを……」
ヘスは懇願するような表情を浮かべた。
ソウォンにしてみれば、大した怪我ではない。
剣術の練習をしていれば、怪我は付き物。
幼い頃から飛び回っているせいか、自分が両班の娘だという自覚が薄れている。
ヘスはヒョクの姿を見つけ、目配せすると。
「お嬢様っ、どうされたのですか?!」
血相を変えたユルが現れた。
しかも、ソウォンを抱えているのが見知らぬ男ときたものだから、その視線は明らかに鋭い。
「ユル、このお方は……」
「んっ、ん……」
ヘスはソウォンの口を塞ぐように咳払いをした。
そこへ、ヘスの護衛が姿を現した。