世子様に見初められて~十年越しの恋慕
金・銀・琥珀・瑪瑙・翡翠……。
どれも艶やかで美しいものばかり。
中でも翡翠のピニョ(かんざし)は細かい彫りが施され、一瞬で目に留まった。
「シファ行首に似合うと思うわ」
「えぇ、姉さん素敵よ」
ソウォンがその翡翠のピニョを手に取り、行首の髪元へをかざすと、他の妓生が手鏡で映して見せた。
「店主、お幾らかしら?」
すっかり気に入ったシファは、店主もうっとりするほどの笑みを浮かべた。
すると、ソウォン達がいる雑貨屋のほど近い店先で、何やら騒がしい様子。
好奇心旺盛のソウォンは、無意識にその場へと駆けていた。
「おいっ、若造!ここにあった螺鈿の水差し、どこにやった?!盗んだのは分かってるんだっ!とっとと出しやがれっ!!」
書道具を扱う店で店主が声を荒げていた。
「失礼にも程があるぞ!私は盗みなどしておらぬ。そもそも水差しなど、見てもおらぬぞ」
ソウォンと同じくらいの歳の少年が、店主に泥棒扱いされている。
少年は絹の淡い水色のチョゴリを着ており、見るからに裕福な家柄の子だと分かる。
だが、店主が怒鳴り散らしても、少年は一向に盗みを認めない。
そんな言い争いに違和感を覚えたソウォンは、店主の元へと。
「おじさん、犯人はその子じゃないわよ!」
「何だ、お前は?!部外者は黙ってろっ!」
「部外者で悪かったわね!でも、盗んでもいないのに濡れ衣着せられるなんて、おかしいじゃない」
「はっ?!お前ら、仲間だろ!?そうやって、俺を騙すつもりだな?二人纏めて捕盗庁(ポドチョン:警察業務を担当する官庁)に突き出してやる!」
ソウォンが正義感で口を出したばっかりに、店主は頭に血が上ってしまった。